携帯つながらず、漂流3日間 TOP BBS Prev. Next

"dummy.gif;;この文章は、遭難したヨットのスキッパー(艇長)から直接聞いた話しをもとにして書いた。エンジン故障やデスマストは、誰にでも起こりうる事態であり、ヨットに乗る者としてはこの経験談を参考にして、危険を回避する手段を普段から頭の中に描いておけば、少しでも航海の安全に役立てることができるだろう。
 初めにこの遭難と漂流の経過を紹介したあとで私たちが得られる教訓を提起していきたい。

事実経過

マストが倒れた!

先月1日、2人が乗ったヨット(34fスループ、船齢18年)が長崎を出航し、沖縄へ向かった。初めのうちは順調だったが、やがてエンジンが不調となり、そのままでは不安なので、翌日トカラ列島の中之島港に入港した。
 調整の結果、エンジンは復調したかのようにみえたが、専門家にみてもらうため奄美大島の名瀬港へ寄ることにして、3日午前11時に出航した。しかし、まもなくエンジンが異音とともにストップし動かなくなってしまった。
 中之島から名瀬まで約80マイルあるが、南西の風が吹き続けていたので帆走で到達できると判断した。夜になって、風力6、波高3mの中を2ポンリーフしたメインとNO.3ジブを展開し、オーバーヒール気味で走っている時だった。20時ごろに突然大きな音がしてフォアステイが切れた。
 ヨットの向きはそのままにしてメインセールを降ろし始めたら、オンデッキのマストが後ろ側へ傾いた。次にジブを降ろし始めたら、ジブハリヤードだけでかろうじて立っていたマストが右舷側に倒れ、そのまま海中に落ちてしまった。ブームがセイフティラインにひっかかってマストが海中にぶら下がるような形になった。緊急事態発生である。
 この時、同じ方向へ航走している本船が見えたので、信号紅炎を点火してみたら、一度は停船したように見えた。しかし、しばらくすると航海灯を消して立ち去ってしまったという。
 携帯電話は、圏外マークがむなしく点灯するばかりだった。この時の位置は、名瀬の北方数十マイルだった。

マストを海中に放棄

マストをそのままにしておくと、ハルにあたって穴を開ける可能性があるので放棄することにした。しかし、ワイヤーカッターを積んでいなかったので、サイドステーを切断することができなかった。金属が切れる鋸を使ってみたが、サイドステーのワイヤーには歯が立たなかった。
 そこで、右舷側のサイドステーはチェーンプレートとの接続部にあるピンを抜いてはずすことができたが、左舷側のサイドステーはマストの重みで強く引っ張られ、それができなかった。
 やむを得ず、チェーンプレートを船体に固定しているボルトをはずす作業を始めた。ボルトは8本あり、サイドステーが引っ張られているせいで、ナットを取ってもなかなか引き抜けなかった。朝方までかかって、ようやくボルトを抜くことができた。マストの重みでテンションがかかっているチェーンプレートをデッキからはずすのは大変だったが、なんとかはずすことができた。はずした瞬間、マストは海中に姿を消した。そのころには、まわりはもう明るくなっていた。

ジュリーリグを立てる

一晩中、揺れ続ける船内とデッキで作業を続けたので2人ともヘトヘトだったが、休んでいるわけにもいかず、マスト代わりにスピンポールを立てた。ステーは船首と船尾にある4ヵ所のクリートなどにとった。スピンポールのトップにはブロックを付けて、ハリヤードにするロープを通した。
 ストームジブに「SOS」と大きく書いたうえで、クリューをトップにしてその臨時マストにホイストした。南西から風力4の風が吹いていたので、上りにはなるが最も近い悪石島へ向けて帆走を始めた。速度は2ノットくらい出ていた。遭難を示す国際信号であるNC旗がなく、運転不自由船を意味する黒球2個を掲げた。
 疲れや暑さのせいか2人とも食欲がなく、食料はたくさんあったが漂流中はあまり食べなかった。以前からあった手作りのドジャーがコックピットを覆い、直射日光を遮ってくれて助かった。
 2人は思っていた以上にジュリーリグで帆走できるのに気をよくしていたが、GPSを見ると実際には南東へ流されているのがわかった。このあたりには黒潮の本流こそ流れてはいないが、南東への流れがあるらしく、それに乗ってしまったわけだ。南東へ流され続ければ陸地がない方へ行くことになり、発見される可能性もうんと少なくなる。とは言っても、動力はジュリーリグしかないのだからあせっても仕方ないと、気分転換に米を1合炊いて2人で食べたりしていた。
 本船を何回も見かけたが、無線はないしこちらの状況を伝えることができなかった。ストームジブに書いたSOSも効果がなかった。2人はモールス信号を知らなかったが、懐中電灯を本船に向かって点滅させてみたら、本船からはモールス信号のような点滅を返してきたこともあった。しかし、理解できないままでいたら、本船はそのまま遠ざかって行った。
 また、夜中に漂泊中の漁船に近づくことができたので、懐中電灯を点滅させてみたら、不審船とでも間違えられたのか、急にエンジンをふかして立ち去ってしまった。
 結局、漂流中には10隻以上の船を見かけたが、どの船も救助に来てはくれず、少なからず精神的なショックを受けた。

GPSが壊れる

 漂流を始めて2日目(7月4日)の昼過ぎ、急にGPSが壊れた。予備がなかったので、これで位置もわからなくなったが、直前に示していた位置は屋久島の南東30〜40マイルだった。ラジオで聞いた気圧配置によると、南風が吹くことが予想された。アビームにしてみると、速度が5ノットまで出たので、これで一気に屋久島へ近づけるだろうと希望が出てきた。

携帯メールがとどく

翌日の未明には屋久島の灯台の光が見えるだろうと期待しながら夜間帆走を続けたが、残念ながら灯台は見えなかった。しかし、5時半ごろに携帯の感度表示が1本だけ立ったので、家族と海上保安部にあてて、メールを送るように操作したところ、送信できた。
 「たすけて 屋久島南20M沖ヨットマスト倒れる エンジンダメ GPS故障 仮設のマストで風下へ3ノット 風に横までなら2ノットでる」
 このメールを見た家族が118へ連絡した。海保の飛行機がヨット上空に飛来したのが11時過ぎ、飛行機が旋回を続ける中、ヘリコプターが飛来して低空でホバリングした。

救助と曳航

2人が元気そうで差し迫った危険がないと海保は判断し、ヘリから救助隊員が降下してくることはなかった。13時過ぎ、高速巡視船の「とから」がヨットの近くまで到着し、テンダーを降ろしてヨットに接舷し5人の救助隊員が乗り移った。救助隊員が持ってきてくれた暖かい握り飯がおいしかった。
 救助隊員は、2人の体調と船体の様子を確かめると曳航の準備に入り、15時前に屋久島東岸にある安房港へ向けての曳航が始まった。安房にヨットが着岸したのは7月6日17時半、デスマストしてから2日と21時間半後のことだった。
 巡視船に発見された所まで、奄美大島沖から約85マイル北北東へ流されていた。

;", "PA040011.jpg;1万マイル以上航海後のさらくのインナーフォアステイ最上部
撚ってあった鋼線がバラけ始めている;

教訓

エンジン故障

このヨットは以前のオーナーのころ放置されていた時間が長かったせいか、いろいろなトラブルが起きていた。エンジンもその一つで、燃料が漏れていることはわかっていたが、その根本的な原因を突き止めることができないままになっていた。また、オーバーヒートを知らせる警報アラームが以前から故障して鳴らなくなっていたという。今回の漂流後、エンジンを調べてみたところ、シリンダーブロックにひびが入って動かなくなったことがわかった。
 連続運転時間が長くなると、小さな障害が大きな障害に発展し、致命的な故障につながる。普段からのメンテナンスの重要性がわかる。

デスマスト

私にもフォアステイが切れた経験が2回ある。1回目は風も弱く、マリーナの近くだったので、ジブとスピンのハリヤードで支えながら無事に帰ることができた。
 2回目は、メルボルン/大阪レースの最中におきた。ブーゲンビル島沖でジブファーラーの動きがおかしいことに気がつき、その五日後、凪の日にマストトップまであがってみると、フォアステイのワイヤーの外側に撚ってあるステンレス鋼線11本のうち7本が切れていた。
 時間の問題とは思ったが、あまりフォアステイに負荷をかけないようにして走り続けた。しかし、この12日後の夜、ついに切れてしまった。大阪までまだ850マイルの距離があったが、幸いなことに強固なインナーフォアステイを取り付けたカッターリグにしてあったので、マストを失うことはなかった。
 オーシャンゴーイングのヨットでは、インナーフォアステイがあると格段に信頼度があがる。強風時には、これにストームジブをあげれば安定して走りぬけることができたし、マストを失わず無事に大阪まで着けたのも、インナーフォアステイのおかげだったと思っている。

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フォアステイの最上部には、普段からかなりの負荷がかかっているので、時々マストトップまであがり、チェックしておく必要がある。特に遠出をする前には、必ずチェックする必要がある。最も切れやすい場所は、最上部のワイヤーがかしめてある部分の直下だ。

もしセーリング中にどこかのリギンが切れたら、とりあえずそこを風下側にするように操船する。そして、切れたリギンの代わりにハリヤードなどを使って補強し、できればそこに大きな負荷がかからない方向へ進むことを第一に考えて避難できる港をめざす。

ワイヤーカッターは、リギンにワイヤーを使っているヨットには必要である。今回、倒れたマストを放棄するために、チェーンプレートまではずさざるをえなくなり、大変な労力と時間を費やした。ワイヤーカッターがあれば、時間をかけずに放棄できただろう。

", "P6260003.jpg;イパーブとパラシュートフレアなど;

船舶法定備品

このヨットは航行区域がふだんは限定沿海にしてあり、今回は沖縄まで往復するために臨時変更検査を受けていた。この場合、追加の搭載を求められるのは自己発煙信号とラジオだけだ。国際信号旗で「遭難している、援助がほしい」を意味するNC旗の備え付けは必要とされていない。
 船舶法定備品の種類や数は、航行区域によって決められているが、それらは最低限必要な物であるにすぎないと考えるべきである。自分たちの安全のためには、できうる限り、法定備品以上の物を備え付けたほうがよい。
 信号紅炎を点火すれば、確かに自分のまわりは炎で明るくなるが、広大な海の上ではチラチラというほどの物でしかない。遠くを走っている船から見れば、波に太陽の光が反射しているほどの見え方しかしていないかもしれない。限定沿海や沿岸の航行区域にしている船でも、何かあった時に、信号紅炎2本だけ、あるいは沿海セットがあれば十分と思っているのは間違いである。

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こんな話しがある。友人が四国沖600キロでデスマストした時のこと。イパーブを発信させたので貨物船が近くまで来てくれた。しかし、昼間であるにもかかわらず、なかなかヨットの位置がわからない様子なのでパラシュートフレアを打ち上げてみた。それでもなかなか気がつかないので、手持ちの7本すべてを打ち上げたところ、最後の1本になってようやく気がついてくれたそうだ。

", "IMG_0110.jpg;黒球2個;

ところで、今回の漂流したヨットの艇長はNC旗がなかったので、黒球2個を掲げた。これは機関や舵の故障で、運転不自由になっていることを示す信号だ。しかし、「だから救出してくれ」という意味にはならず、「こちらは不自由な運転をしながらも、なんとか自力で進んでいくから、そちらで避けてくれ」という意味になる。少しでも速い救助を求めるなら、掲げるべきではなかった。

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また、信号や旗がなくても、両手を広げて上下に動かせば、救助を求めていることを意味するが、このことを知っている人はどれだけいるだろうか。
 日本の小型船舶免許教育機関では、免許を取らせることだけを優先させて、緊急時のこうしたサバイバルにつながる教育を軽視している。これが今回の救助が遅れた遠因の一つにもなっていると思う。しかし、海へ出る者ならこういう教育環境であることを自覚して、自分から進んでヨットスクールに入ったり、必要だと思われる物を用意して船に積み、いつでも使えるようトレーニングしておくことが必要だ。

", "IMG_0013.jpg;VHFとアマ無線のトランシーバー;

GPS

機械は壊れるもの、と思っていたほうがよい。特に電気を使うものは、直前まで働いていても、水が入ったりするとすぐにダメになる。必ず、予備のものが必要だ。

無線

海岸にへばりついて航海するのならまだしも、少しでも沖に出るつもりがあるのなら携帯電話は役に立たなくなることを肝に銘ずるべきだ。ほんの数マイル沖に出ただけで、圏外になってしまうところだってある。

今回、アマチュア無線のトランシーバーか、国際VHFと呼ばれる船舶間の通信に広く使われているトランシーバーを搭載していたら、救助はもっと速くおこなわれたにちがいない。
 アマ無線には、ヨット乗りたちが相互連絡に使っているオケラネットやシーガルネットの交信が21Mhz帯で毎日おこなわれている。この人たちはヨットの事情がわかっているから、対応はすばやいだろう。しかし、一般のアマ無線家との交信では、状況の説明に時間がかかり、ようやくわかってもらった頃には事態が進行してしまっていることもあり得るから、全幅の信頼はおけない。
 海やヨットのことをまったく知らない人に、要領よく短時間で状況を伝える話し方を普段から考えておく必要がある。ヨットの状態、位置を話し、とにかく早く118へ電話して伝えてくれとお願いするしかない。
 また、アマ無線には周波数帯がたくさんあるが、オールバンドのトランシーバーを搭載したほうがよい。そうすれば、近距離と遠距離、両方の通信に対応できる。

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国際VHFは本船には必ず搭載されていて、16chの常時聴取が義務付けられているから、海上交通がある程度ある海域で「メーデー、メーデー‥」と発信すれば、まず間違いなく返答がある。国内では海上保安部も常時聴取しているから、心強い。ただ、VHFという周波数の特性上、あまり遠くまで電波が届かない。私の経験では、マストトップのアンテナで、出力を最大の25ワットにして、50マイルの距離で交信したことがあるのが最高だ。
 このVHFは日本国内では免許が取得しにくいことが欠点だ。3級から1級の海上特殊無線技師の国家試験を受けることになるが、年3回の試験しかないうえに願書の提出がその二ヶ月前の20日間だけなので、かなり計画的にやらないと逃してしまう。講習会もあるが、とても費用がかかるのでおすすめできない。
 以前、国家試験のスケジュールにあわせられず、しかたなく数万円を支払って3級の講習会を受けたことがある。その無線工学と称する試験問題の中に「電源ランプが点いている無線機があるが、この無線機には電源が入っているか否か」というものがあるのを見て、それ以降この手の講習会は絶対に受けないことにした。
 ちなみに国家試験では受ける級によって問題が違うが、それは難易度というより単に出題範囲が広いか狭いかという違いであるように見受けられる。だから、過去何年間かの出題問題集を買ってきて、勉強というより暗記してしまえば合格できる。少なくとも、私が合格した第3級海上無線通信士のレベルまでなら、確信を持ってそう言える。", "IMG_0004.jpg;VHFハンディトランシーバー;

VHFトランシーバーは外国のヨットでは、ごく普通に搭載していて、交信も頻繁に行なわれている。日本とは違って、免許取得が容易なので普及しているのだ。DSCという、ボタン一つ押せば自船の位置を他局に瞬時に知らせることができる装置も標準装備になっている。ところが日本では、DSCはおろか、従来型のトランシーバー搭載ですら許認可制度の高い壁があることが残念だ。
 日本のヨット雑誌などでも、無線のことが話題になることはほとんどなく、ベテランと言われる人たちも関心が薄い。このため、多くの人たちが携帯電話さえあればなんとかなると思っているが、今回の漂流はそれが間違っていることを証明した。

イギリスの艇長は無線免許所持が常識

RYA(Royal Yachting Association)のコースタルスキッパーとヨットマスターのクラスの講習を受けるには、無線の免許を持っていることが条件の一つになっている。ヨットの盛んなイギリスでは、海上における無線の重要性が認識されていて、ヨットに乗る者、とくに艇長など責任者は無線免許を持つことが常識なのだ。
 ちなみに、講習を受けるもう一つの条件として「応急手当に関する講習を受講した証明書」があり、私は日赤の救急員講習を受けていった。

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トランシーバーにはハンディタイプの物もあるが、その低出力とアンテナの性能から、交信範囲は見通し距離内に限られるだろう。救助の船、あるいは航空機が接近した時に交信するためのものと割り切っておくべきだ。
 いずれのトランシーバーにせよ、日本国内でも電波を出さずに所持するだけなら、免許や無線局の開局は必要ない。勉強のために船舶間の交信を聞きたいという人は、通信販売などで安く求めることができる。公海に出れば、国内の法律は適用されない。
 アマ無線、VHFともアンテナをマスト周辺に頼ることが多いが、デスマストに備えて予備アンテナの用意が必要であることは言うまでもない。

五島灘での体験

五島から長崎へ向けてセイリングしていた時のこと、霧で視界数百メートルになった。VHFから英語のアナウンスが聴こえてきた。数字を読み上げているようだったが、くわしくは聴き取れなかった。電波が強く、その船はかなり近くにいるように思えた。しばらく走っていくと、霧の中に軍艦が停止しているのが見えてきた。
 この軍艦はレーダーでまわりの船の動きを見ていて、衝突されるおそれがあるため自船の位置の緯度と経度を読み上げたうえで停止していたと思う。五島灘では、少々の霧なら漁船や鮮魚運搬船が普段どおりのスピードで走り回っているから、危険回避のためにそうしたのだろう。無線にはこんな使い方もできる。

", "IMG_0008.jpg;イリジウム衛星電話(右)と携帯電話;

イリジウム衛星電話

大きさは携帯電話を二回りほど大きくした物で、新品を購入すると20万円以上する。しかし、上空が開けている場所なら地球上のどこからでも使えるから、外洋で使うには便利だ。通話料は1分間165円。
 本体の裏側に20センチほどの棒状のアンテナが付いているほか、外部アンテナも接続でき、使用方法はいたって簡単だ。

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航行区域をどのように届け出ているにせよ、遠出をするときには自己責任で法定備品を上回る備品や装備を用意していくことは必要だ。こういうところで節約をしようというのは間違っている。
 携帯電話の普及を背景に、小型船舶検査機構・JCIでは、携帯電話を持っていれば法定備品の一部を減らしても良いという規則も作っている。しかし、大きな都市に近い海上など条件が良い場所をのぞけば、圏外の海域はまだまだあるから、船に乗る者にとって携帯はあてにはならない。
 JCIとしては、小型船で無線が使いにくい法体系になっているためにVHFがいっこうに普及しない中で、小型船舶所有者の便宜をはかろうとして、こんな規則を作ったのかもしれない。しかし、ここは無線の法体系を変えることを最優先してもらいたい。
 無線は総務省総合通信局の管轄ということで、JCIとは管轄が違うという話になるのだろうが、小型船舶の安全を考えれば、VHFやイパーブの利用がもっと気軽にできるよう役所の壁を越えて努力するのも仕事の一つではないのだろうか(私たちにとってはJCIも役所である)。
 国内でこうした装備を用意しようとすると、外国とくらべて値段が高いという問題にまずぶつかる。次に、申請や許可の手続きが煩雑であることが問題になる。
 オーストラリアでイパーブの購入をしようとすれば、簡単な書類一枚に名前や船名などを書き込んで、それを販売店から役所にファックスするだけで即使用可能になる。これを日本でやるとなると、「イパーブは電波を出すから無線局である→無線局設置の申請書を出して許可を受けなさい」ということになっている。こういうのを屁理屈と言うのではないかと思うが、ともあれ日本では金と手間がかかる仕組みになっている。

現状はこのとおりだが、嘆いていても前進はない。自分で工夫して、自分の安全は自分で守っていくしかない。

以上のことをまとめてみれば、次のようになる

  1. 少し沖に出たら、携帯電話は役に立たなくなるものと思うべし。
  2. 無線や衛星電話など、携帯以外の通信手段を持つべし。
  3. GPSも含めて機械は壊れるものと割り切り、必ず予備を持つべし。
  4. 海上衝突予防法など、海の上の決まりを正しく理解すべし。
  5. ふだんからヨットのメンテナンスをしっかり行い、異常があるところは修理しておくべし。
  6. 法定備品は最低限の物とこころえ、安全のためには自己の判断で必要と思うものをさらに搭載すべし。

何事もトライすれば成功することもあるし、失敗することもある。他人の失敗を笑うことは簡単だ。大自然の中へ入っていけば、予期しないことがおきることは誰にでもあり得る。そうした時に自力でいかに道を切り開いて事態を打開することができるのか。
 今回の2人は、漂流という事態にもパニックに陥らず落ち着いて対処し、ジュリーリグを立てて自力での生還にトライした点は評価できる。
 国内でのヨットを取り巻く環境は決して良くはないが、もともとヨットは自己責任のスポーツだ。誰かに言われて、あるいは誰かに用意してもらって、というのではなく、日頃から自分の安全は自分で守るつもりで準備していけば、自ずと道は開けてくる。

2006.08.08

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